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「残酷」展

素直に生きることは難しい。この世で正直に生きることは厳しい。いろいろな要素が介入して、熱を冷まし、棘を丸くする。人間が正直に生きることとはどういうことだろうと考えた。そしてそれはとても残酷なことだと思った。
今までいろいろな形で集団を描こうとして来て、ここに至って自分と妻、夫婦を描こうと考えた。それは社会の中で最小で最も重要な集団であり、自分にとって一番距離の近い他人との関係だ。それを正直に露にすることは残酷な視線にさらされるかもしれない。しかしそれは頭の中の病的な世界や、スタイルばかりにとらわれる現代美術の世界なんかよりはるかにリアルな対象だ。そのリアルさ、匿名ではない個人の生身の姿は、今の時代のあらゆるものに対する刃になる。そしてそれをあえて絵画と言う方法で描くことでなにか伝わるものがあるんじゃないか、そう考えた。
制作は困難なものだった。どうしていいかがわからなかったからだ。まず既存のポーズから気になったものを探し出し、100種類近くのポーズをとった。それをエスキースや写真などに記録、気になったものから感覚的に選んで描き始めた。描いてゆくと、立っているポーズより、うずくまっているなどのより自然なポーズがふさわしいという方向に向かいオリジナルな動きを付け加えていった。そして自然に自分たちの表現が現れてきた。
普段現代美術では扱わなくなった、人間の具体的な表現を考えた。そこには愛情、怒り、憎しみ、孤独、セックスなどさまざまな要素があった。自分と言う自然な造形物をここまで観察したのもはじめてのことだったし、人間同士の強い関係を自然に表現したのもはじめてのことだ。そういった普遍的なテーマを「今の表現」で伝えたかった。準備に一ヶ月以上かかり制作は二週間で一気に行った。そこにはモデルと描き手、双方の変化があった。それもすべてさらけだした絵画でのドキュメントだと思っている。
2008年12月1日

gallery wks.は6m×4.8mの横に長いホワイトスペースだ。作品は縦183cm横920cm厚さ0.9cmのラワン板に水彩紙を水張り。その上にメディウムに土を混ぜて人物の形に下塗りし、黒インクにシルバーの顔料を混ぜて一気に描いた。一点の制作時間は3分ほどのスピードで制作した。作品は計12点ほど生身の形でごろんと壁に立てかけられる。すべて千光士誠、佳子夫妻の生身の姿が露に描かれている。



評価
これほど意見や感想が個別に分かれた展示もなかった。個人的な世界を描いたので、相手の個人的な部分が露出して来たことに驚いた。評価と単純に言えないものがあり、それは個人個人の反応という言葉がふさわしいかもしれない。否定的反応としては、絵のおもしろさ、表現のおもしろさが減ったという部分だ。こちらは生なものストレートなものを打ち出したかったのでそのリスクは最初からあった。肯定的反応はまさに直撃した感情、存在、またはそれ以外のなにかが観客に入り込んだということ。具体的な人間のやりとりを描いて観客が具体的にいろいろ想起したことだ。そういった意味で否定的意見が出るのは承知の上での挑戦だった。人間により接近し得たこと、対象の人間が作品制作にも介入して来たこと。女性の視点が入ったこと。女性の観客に届いたこと。余計な夾雑物をとっぱらって、人間通しの深いやり取りが出来たこと。これはまた自分にとってもこれから行う集団での制作にとっても重要な展示になった。